ヘリコバクター・ピロリ菌感染症 
 
 ヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori)は、胃の出口付近(幽門前庭部、ピロルスともいう)に住んでいる螺旋状の形をした細菌(バクテリア)です。1983年に初めて人の胃粘膜より分離・培養されたまだ研究期間が比較的新しい菌です。胃には強い酸(胃酸)があるため通常の菌は生きていけませんが、ヘリコバクター・ピロリ菌は“ウレアーゼ”という酵素を持っていて、胃の中の尿素を分解してアンモニアを作りそれにより胃酸を中和して胃粘膜中に生息します。このウレアーゼによって生じたアンモニアが胃粘膜障害を引き起こすと考えられています。そのため慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍の原因となります。また、最近は胃癌との関連性も強く示唆されるようになってきました。下記は13歳の女性で十二指腸潰瘍の方の上部消化管内視鏡の写真ですが、胃粘膜にも凹凸が見られ慢性胃炎の所見を呈していたため、検査を行いましたところ、ヘリコバクター・ピロリ陽性でした。除菌(3種類の薬を1週間内服します。)を行い、その後、十二指腸潰瘍の再発はありません。
 このように、若年者でもヘリコバクター・ピロリの感染者がおり、その割合は一説には小学校6年生で15〜30%以上とも言われています。ヘリコバクター・ピロリの検査には内視鏡による組織鏡検の他、呼気試験、血液、便の抗原・抗体検査などがあります。今のところ、保険診療は胃・十二指腸潰瘍とMALTリンパ腫(ヘリコバクター・ピロリ菌が関与するリンパ腫)に限られていますが、検査で陽性の方には除菌、あるいは年に1回程度の内視鏡検査をお勧めします。
                                       
                                         

  十二指腸球部の写真です。右下の白い部分が潰瘍です。


  胃体下部です。左側(前壁〜大わん側)に小さな凹凸が見られます。